日本脳炎予防接種の疑問 定期接種は再開?「旧ワクチン」「ADEM」とは?旧ワクチンはもう使ってない?北海道はなぜ特殊?

  • 作成:2016/07/21

日本脳炎の予防接種のワクチンは、「旧ワクチン」と「新ワクチン」にわけられています。なぜ「旧ワクチン」というのかというと、最近新しいワクチンが出たからです。日本脳炎の予防接種は「ADEM」という症状が問題視されて、予防接種の勧奨(すすめること)が中止されてきた経緯もあります。旧ワクチンをめぐる問題に加えて、北海道でも定期接種がはじまった理由も含めて、医師監修記事で、わかりやすく解説します。

アスクドクターズ監修医師 アスクドクターズ監修医師

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日本脳炎の旧ワクチンとはどんなもの?
日本脳炎の予防接種ワクチンとは?生ワクチン?旧ワクチンと新ワクチンの違い
過去に日本脳炎の予防接種が勧奨中止になった理由 ADEMとは?
日本脳炎のワクチンは定期接種に戻った?
日本脳炎の旧ワクチンはいまでも使われている?
北海道で定期接種化されたのはなぜ?それまでは何故不要と考えられていた?

日本脳炎の予防接種ワクチンとは?生ワクチン?旧ワクチンと新ワクチンの違い

ワクチンは、病気を起こす本物のウイルスに感染する前に、弱いウイルスを感染させてそのウイルスに対する免疫力をつけておく予防方法です。ワクチンにより免疫力がつくと、体の中には日本脳炎に対する「抗体」(体の中に入ったウイルスと戦う武器のようなもの)がつくられます。日本脳炎に感染した時、抗体を持っていないと、ウイルスが身体に入ってから1から抗体を作り始めるので、守りが遅れます。しかし、あらかじめ抗体ができていれば、ウイルスが体内に入った瞬間からウイルスと闘うことができるようになります。

ワクチンには2種類あります。1つは生きた細菌やウイルスといった病原体を弱めて接種する「生ワクチン」です。生ワクチンは実際に感染したのと同じ状況になるので、接種回数が少なくても免疫力を獲得できるのが特徴ですが、体の中で弱い病原体が増えてそれに伴って抵抗力をつけていくので、実際に十分な免疫力を獲得するまでには接種から1か月ほどかかります。

もう1つのワクチンは「不活化ワクチン」です。これは病原体を無害に(不活化)して、その形骸(けいがい)だけを接種します。病原体のぬけがらだけを接種するので体内で病原体は増えず、免疫力を獲得するためには、複数回の接種が必要です。日本脳炎ワクチンはこの不活化ワクチンに分類され、計4回の接種が必要です。

以前の日本脳炎ワクチンは「旧ワクチン」と呼ばれています。旧ワクチンはマウスの脳に日本脳炎ウイルスを接種し、マウスに日本脳炎を発病させてウイルスを増やし、その脳からウイルスを取り出して、ホルマリンなどで活動性を抑えた(不活化)ものです。しかしこの旧ワクチンは後述する副反応、ADEM(アレルギー性炎症の1つ、致命的になる可能性がある、詳しくは後述)の問題で現在は使われていません。代わりに2009年に新ワクチンが発売されました。2つの会社が作った「ジェービックV」(阪大微研)と「エンセバック皮下注用」(化血研)です。「ジェービックV」の方が多く出回っています。

新ワクチンはサルの腎臓由来の「Vero細胞」という細胞を使ってウイルスを増殖させ、増えたウイルスをホルマリンで不活化、硫酸プロタミンで処理、さらに超遠心法で精製し、安定剤を加えて容器に詰め、凍結乾燥したものです。旧ワクチンと比較して、効果や安定性は同等とされています。副反応に関してはADEMの発生は理論上かなり低い、つまり致命的になる可能性は低いと考えられますが、接種部位の発赤(赤くなること)や発熱は旧ワクチンより多いと報告されています。

過去に日本脳炎の予防接種が勧奨中止になった理由 ADEMとは?

戦後ワクチンの普及により日本脳炎になる人は減りましたが、その一方でワクチン接種により「ADEM」という病気を発症した可能性あることが問題視されるようになりました。ADEMは日本語で「急性散在性脳脊髄炎」といいます。「髄鞘蛋白(ずいしょうたんぱく)」という物質に対する自己免疫(攻撃する成分)ができてしまうのが原因で、アレルギーが関連していると考えられます。「髄鞘」とは神経細胞の周りをおおっている細胞で、この髄鞘部分が障害をうけると神経的な障害が現れます。具体的には、日本脳炎と同じような髄膜刺激症状や脳炎の症状が見られます。予防接種後のADEMの場合は予防接種後、数日から2週間の間に発熱・頭痛・けいれん・運動障害が現れます。しかし、ADEMのほとんどは完全治癒し、歩行障害などの後遺症の可能性は10%程度です。また、原則再発はありません。

旧ワクチンによるADEMは当初、ワクチンを作る過程で使用するマウスの脳の成分そのものが混入したためと考えられていました。しかし、この考えは旧ワクチンの成分を調べた中にマウスの脳成分が検出されなかったことから否定されています。

国内で予防接種の後にADEMを発症した人は1994年から2005年までに21件であり、日本脳炎ワクチン接種後のADEMは70万回から200万回の接種につき、1回程度の発生と考えられています。

日本脳炎のワクチンは定期接種に戻った?

ADEMは予防接種を打たない人でも発症することがあり、予防接種に関係なくADEMを発症した割合と、予防接種後にADEMになった割合には差がありません。このことから予防接種をするとADEMになりやすいわけではないと最終的には結論付けられました。

さらに国内の豚などの動物に日本脳炎ウイルスが毎年みられることや、2005年に日本脳炎の予防接種の推奨を中止して以降、日本脳炎の患者が現れたことから、再び予防接種の重要性が再検討されました。具体的には、2007年と2008年に1人ずつ、2009年には2人の日本脳炎患者が発生しています。この時の患者は1歳から6歳の子供で、海外旅行はしていないため、国内で感染したと考えられています。幸い命を助けることはできましたが、運動やしゃべることについての後遺症が残りました。

そのためADEMを発症した場合と日本脳炎を発症した場合の死亡率や後遺症の残りやすさを検討し、2010年4月1日より厚生労働省は「日本脳炎ワクチンに対しての積極的推奨の再開」を発表しました。さらにそれまでの期間に予防接種を打てなかった人にも接種を勧めるようになりました。

日本脳炎の旧ワクチンはいまでも使われている?

旧ワクチンと呼ばれていたのは日本脳炎ワクチン「ビケン」(阪大微研)です。このワクチンはウイルスをマウス脳で増殖させてホルマリンで不活化し、その後精製したもので1954年に開発されました。しかし、この製品は不純物が多いことが問題でした。そのため改良され1965年にアルコール、硫酸プロタミン、超遠心法を組み合わせた高度精製ワクチンが開発されました。1976年には「乾燥日本脳炎ワクチン」が開発されました。さらに1988 年には、野生株との交叉反応性が高い(抗体を生み出すが力が高い)が優れているとの理由で材料となる、ウイルスが中山株から北京株へと変更されました。1992年には、乾燥日本脳炎ワクチン(中山株)が米国FDAによって承認され、海外でも使用されるようになりました。

しかし、ウイルスをマウス脳で増幅する旧ワクチンはマウス脳由来成分の残存を完全に否定できないことが問題とされていました。旧ワクチンは、2010年3月末に製造供給が完全に中止となり、その後は新型ワクチンのみとなっています。

北海道で定期接種化されたのはなぜ?それまでは何故不要と考えられていた?

2016年4月1日から北海道においても日本脳炎ワクチンが定期の予防接種となりました。それまでは北海道には日本脳炎を媒介する蚊が少ないことや、北海道内で患者が発生していなかったことから、定期の予防接種は行われていませんでしたが、交通網の発達により北海道に住んでいる人が道外や海外に行く機会が増えていることから、定期接種に切り替わりました。

北海道で、誕生日が1996年4月2日から2007年4月1日に該当し、20歳未満の方で、予防接種を1回も接種したことがない人は、6日以上(標準的には6日から28日)の間隔をあけて2回接種し、6カ月以上(標準的にはおおむね1年)の間隔をおいて3回目を接種する必要があります。3回目から6日以上の間隔をあけて(5年から10年あけることが推奨されています)4回目を接種となっています。ただし20歳を過ぎて接種した場合は、定期接種対象外となります。


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日本脳炎の旧ワクチンの予防接種の問題やADEMなどについてご紹介しました。予防接種の受診に不安を感じている方や、疑問が解決されない場合は、医師に気軽に相談してみませんか?「病院に行くまでもない」と考えるような、ささいなことでも結構ですので、活用してください。

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